甲状腺機能減退症
最初にあなたが気づくのは、食欲が変わらないのに体重が増えてきた、という事かもしれない。
以前に比べておとなしくなった、つまりあまり遊びたがらず、寝てばかりで、散歩に連れ出してもすぐに疲れた
様子を見せるということである。
場合によっては皮膚の変化や脱毛に気づく事もあるが、
はじめは、たいがい年のせいだと片付けてしまう事が多い。
しかし、そう決め付けるのはまだ早い。まず、獣医師に相談すべきである。
それは、甲状腺機能減退症にかかっているかもしれないからである。
声帯のすぐ下にある、蝶の羽のように二つの葉に分かれた形をした甲状腺の障害によって、
甲状腺機能減退症は起きる。
この腺は甲状腺ホルモン(サイロキシン)を生産し、分泌するという役割を担っている。
サイロキシンというのは体のあらゆる機能に影響を与えるが、その中で最も重要な働きは、犬の体の代謝速度
を制御する事である。
甲状腺機能減退症になると、十分なサイロキシンが生産されなくなり、結果的に代謝速度が遅くなる。
甲状腺機能減退症は犬の内分泌障害の中では最も多く見られるもので、四歳から十歳までの間に
始まる事が多い。
普通この病気は雄雌に関係なく発生し、次のような中型から大型の犬に多く見られる。
・ゴールデン
・ドーベルマン
・グレイハウンド
・アイリッシュセッター
・ダックス
・ミニチュアシュナウザー
・グレートデン
・プードル
・ボクサー
甲状腺機能減退症は一次性および二次性に分類される。
ほとんどの場合が一次性であり、つまり、甲状腺自体の破壊を意味している。
この場合、犬自身の免疫システムによってこのような事が起きると考えられている。
一次性の原因
・リンパ球性甲状腺炎 遺伝的な原因がもともと存在し、犬の甲状腺が徐々に破壊されていく。
・特発性濾胞壊死 原因は不明であるが甲状腺の変性が起きる。
・甲状腺の新生物(癌)、あるいは感染
・食事中のヨード不足
・先天的要因(クレチン病、小人症)
・外科的な甲状腺摘出
二次性の原因
・脳の中にあってある種のホルモンを貯えたり、分泌したりする脳下垂体の異常によって起きる。
何らかの理由によって脳下垂体の甲状腺刺激ホルモンの分泌に障害を受けた状態が、二次性の原因である。
<注意すべき点>
甲状腺ホルモンが欠乏すると、あらゆる臓器の代謝に影響が現れる。
結果として現れる症状は変化に富み、非特異的である。
この病気にしか見られない症状というものがないので、いくつかの徴候によって獣医師は悩む事になる。
その徴候とは、
・衰弱 遊びたがらず、寝てばかりいる。
・悲しみ、沈鬱
・運動不耐性 歩くだけで疲れる。
・体重増加 食欲の増加を伴わない
・寒さに耐えられない 暖かいところを探す。
・心拍数の低下 洞性徐脈
・不妊症
・便秘症
・下痢症
・慢性の皮膚障害 乾燥肌、脱毛
<診断>
甲状腺機能減退症の診断は一筋縄ではいかない。
検査の種類は徴候によって異なるし、あなたの獣医師ができる検査法によっても変わってくる。
適切な診断をするためには病歴、臨床徴候、身体検査所見や、以下に述べるような診断的検査等を
参考にする必要がある。
・完全血球検査
・生化学的検査
・尿分析
・サイロキシン(T4)レベル
・サイロトロピン(TSH)刺激テスト
・場合によっては胸部と腹部のレントゲン
<治療>
幸いな事に、甲状腺機能減退症は、合成サイロキシンを毎日一定量のませることで容易に治療できる。
いったん治療を始めると、その犬の生涯にわたって投薬を続ける必要がある。
<家庭では>
家庭では、指示された薬用量を厳密に守るとともに、症状の再発がないか、あるいは活発すぎるとか、
体重が減少するとかいった逆の徴候が現れないかを注意する必要がある。
そうすることによって、適切な甲状腺機能を維持するのに必要な量を与える事ができる。
それゆえ、定期的に獣医師の診断を受けて、血液中のサイロイドホルモンを測定し、適切な薬容量を
確認する必要がある。
<予防>
この病気は内分泌障害の一種であり、予防不可能である。
しかしながら、いったん治療を始めると、多くの症状は改善される。