股関節形成不全
<はじめに>
股関節形成不全によって犬の股関節が弱くなって変形し、関節炎を起こすようになると、犬は痛みを伴うようになり、
やがて歩けなくなってしまいます。
この病気は股関節の正常な発育が妨げられる事によって起こります。
ちょうどボールとソケットのような構造になっている股関節で、大腿骨頭が寛骨臼にぴったりと納まっていないことが原因です。
股関節形成不全の症状は最初はゆっくりと進行するので分かりにくい事が多く、やがて重度の関節炎にまで進行すると、激しい跛行を
呈するようになります。
いくつかの要素が股関節形成不全の発生に関係しています。
まず、この病気は雌より雄に起こりやすく、シェパードやロットワイラー等の種類は遺伝的にこの疾患を起こしやすいとされています。
食事の種類や、体重の増え方、成長の速度と言った、環境的な要因もまた、この疾患の発生に関与しています。
股関節形成不全は明らかに若い成長期の犬に起こります。
臨床的な徴候が現れるもっとも早い年齢は、普通4ヶ月位ですが、成犬になるまで、あるいは老齢に達するまで何の異常も見られない犬
もいます。
<どんなことに注意するか>
もしあなたの犬が股関節形成不全にかかっていれば、異常な歩き方や、運動能力の低下、跛行などに気づくかも知れません。
あなたの飼っている若い犬が左右のおしりを上げ下げするような歩き方、(ちょうどマリリンモンローのような歩き方)をしていることに
気づくかもしれません。
場合によっては長距離の運動をいやがったり、立ったり座ったりができにくくなったりすることも考えられます。
もちろん、普通の子犬ではこんなことはあり得ません。
この症状は両側的に起きることもあれば、片側だけに起きることもあります。
もしあなたの犬が年を取っていれば、これらの徴候がよりはっきりとわかり、寝たり起きたりするのにも苦労するかもしれません。
もし、次のような症状が見られれば、獣医師に相談してください。
・後肢の跛行
・よろめき、ふらつき
・立ったり、座ったりするのが辛そう
・走ったりジャンプしたりできない
・異常な歩き方
<診断>
獣医師はまず、最初に歩き方を見ます。普通に歩いているときや、小走りをするときに、後ろ足がびっこをひいたり、
お尻を振る様子がないかを観察します。
そして、立ったり座ったりが無理なく行えるかをチェックします。
次に股関節を動かしてみて、可動範囲を調べ、股関節を伸ばしたときに痛みがないかどうかをチェックします。
このとき、股関節の外れる「コリッ」という音が聞こえる事もあり、これは骨と骨がこすれて、軟骨が損傷を受けている事を意味します。
レントゲンによって、股関節の状態が明らかになります。
股関節形成不全の程度や、それによって起きる関節炎の程度も知る事ができます。
元気な若い犬では、これらの検査を行うときに鎮静や麻酔が必要になることがあります。
それは、股関節を触ったり動かしたりすると強い痛みを伴う事があるからです。
この病気をもった若い犬では、大腿骨頭が寛骨臼にぴったりと収まっていないので、簡単な操作で亜脱臼を起こす事ができます。
<治療>
犬の不快感を和らげ、活動性を取り戻すための様々な治療法が今日では開発されています。
治療法は犬の年齢や問題の程度、経済的な側面等から決定されます。
体重を減らしたり、運動を制限したり、消炎鎮痛剤を投与したりすることによって、股関節周辺の炎症や痛みを軽減することが
出来るでしょう。
もしこうした方法でも改善がみられない場合、外科的な方法も考慮しなければなりません。
もしその犬が若ければ、骨盤の三点骨切術(TPO)が選択されるかも知れません。
老齢犬の場合、骨頭切除術(FHO)や、大腿骨頭全置換術(THR)を考慮する必要があります。
<家庭での看護>
治療中の犬にとって大事な事は、体重を管理し、肥満を避ける事です。
激しい運動をさせてはいけませんが、毎日の軽い運動が続けてください。
もし可能であれば、水泳は非常に良い運動です。それは股関節に体重をかけずに筋肉をつけることが出来るからです。
獣医師によって薬物投与を指示された場合、それに伴う副作用についても知っておく必要があります。
もしTPOやTHR等の手術を受けた場合、六週間は安静にして、その後は徐々に運動を増やすべきです。
いっぽう、FHO手術を受けた後は、二週間後に軽い運動を始めてください。
術部が腫れたり、赤くなったり、分泌物が出たりしていないかを観察してください。
<予防>
予防をする上で必要な事がいくつかありますが、まず、次のことを考慮に入れてください。
子犬を買うにあたって、その両親がOFA(動物の整形外科協会:アメリカの場合)による股関節の評価を受けているかを確かめます。
両親の股関節に問題がないことを確かめてください。
犬の股関節を評価するためのペンヒップ法によって、4ヶ月未満の犬の股関節についてよい情報を得る事ができます。
問題をできるだけ早く発見する事により、股関節形成不全によって起こる二次的な関節炎を最小限にするための最適な内科的、
あるいは外科的治療法を選択することができます。